近年、介護の現場では、抱えないケアを意味するノーリフティングケアの取り組みが広がっています。
ノーリフティングケアとは、持ち上げない・抱えあげない・力づくで行わないことで、介護する側もされる側も安心と安全が保たれると注目を集めているケア方法です。元は、オーストラリア看護連盟が、看護師の腰痛予防のために1998年頃から提言し始めた取り組みでした。身体の間違った使い方をなくし、対象者の状態に合わせて福祉用具を活用しながらケアします。ノーリフティングケアは、押す・引く・持ち上げる・運ぶ・身体をねじるの5つの動作を極力行わないようにするのが基本です。これらの動作を行う際に、介護を提供する側も受ける側も双方の身体にかかる負担を減らします。
抱えないノーリフティングケアの導入は、寝かせきりによって発生する褥瘡や、緊張などによって関節の可動域におこる拘縮の予防に効果的であると言われています。介護を提供する側の腰痛予防や、短期間の研修で安全な介護ができるようになる導入のしやすさに加えて、介護される側の精神的な負担減も大きなメリットです。人の力で無理やり抱えあげるときに感じていた痛みや恐怖が軽減されることで気持ちが落ち着き、身体のこわばりが取れて姿勢がよくなるといった変化につながります。食事の量や排泄にまで好影響を及ぼしたり、福祉用具を活用することで介護される時に身を任せられるだけでなく、足を踏ん張ったり前にかがむなど自主的に自分の能力を使うといった日常生活のリハビリ効果も期待できます。